*AWA FAVORITE

「ビーフカレーを作りたい」
そうつぶやくと彼はお気に入りのジャケットを着て車に飛び乗った。
カーステレオから流れるのはUnderworldのSpikeeっていう曲。
彼はいつもカレーのことを考えていて、ウマいカレーを作りたいって思ってる。

いつもフザけている彼だけど、何かを作る時には全神経を集中させる。
この日は食材調達の前に食事を済ませておいたらしい。
空腹状態では食材選びに集中できないことがその理由だ。
たしかに、ハラが減っていると無駄な買い物をしてしまいがちである。
マッシュルームと玉ねぎを買い揃え次の店へ。


ブラジルスーパーで牛モモ肉を購入。陽気な店員のいる楽しい店らしい。
それぞれの食材を、自分が知る良いものを置いている店で調達している。
不効率ではあるがそれも楽しいのだろう。彼のカレー作りはもうはじまっている。


家にある野菜をてきとうに選びスープにする。
この日はセロリ/パセリ/ニンジン/玉ねぎ/長ねぎをじっくり煮込んでいた。


煮込まれて野菜がくったりとした鍋からスープをすくった彼はニヤリと笑った。


牛モモ肉は水気を拭いて赤ワインに浸ける。
前にビーフカレーを作った時に肉がパサついたことを悔やんだ彼のひと工夫だ。


牛モモ肉をフライパンで焼く。
強気の強火で表面に焦げ目を浸けて焼くのがポイントらしい。香ばしい匂いがした。


野菜を煮込んだスープを濾して肉を煮込む。
お気に入りの鍋[STAUB]でじっくり煮込んでいく。ベイリーフも加えていた。


刻んだ玉ねぎを炒めてあめ色玉ねぎを作る。
以前は玉ねぎをみじん切りにしていたが、今は効率を考え千切りにしているという。


オリーブオイルでマッシュルームを炒める。
大きめにカットして。ホワイトマッシュルーム、ときどきブラウンマッシュルーム。


鍋にホールトマトとあめ色玉ねぎ、マッシュルームを加えて煮込む。
工程を積み重ね、鍋の中身が食べられるものへ変わっていくのが楽しいと彼はいう。

鍋を火からおろし、一晩寝かせる。
翌日いよいよ味付けとなるのだが、写真を撮り忘れてしまった。
カレールーとガラムマサラ、illyのエスプレッソをひとつまみ。
もう少し煮込んで、味が馴染んだらできあがりだ。

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[ビーフとマッシュルームのカレー]

こだわりのカレーは、ファイヤーキングのディナープレートに盛りつけられた。
口の中でホロホロとくずれる肉と、プリっとした食感のマッシュルーム。
おいしいカレーだ。旨み・甘み・苦み・酸味と香りのバランスこそカレーである。

いろいろとこだわりがあるようだけれど、わたしはまだまだ甘いと思う。
各工程にその片鱗はみえるけれど、市販のカレールーに頼っているからね。
最終的な味は、たしかに他のどこでも食べられないような味なんだけどな。
積み重ねたプロセスを、市販のルーで締めくくるのってどうかなって。

彼はいう
「オリジナルをつきつめて自分でスパイスを調合することはできるだろう。だけど、それがおいしいかどうかはわからない。カレールーを使うとウマいじゃん。こだわりはあるようで無いんだよね。前に作ったときに悪かったと思うところを修正している感じ。だから、もしあるとしたら前よりウマいカレーを作るってことかな。手間を掛けてるわりには中途半端なのは自分でもわかってるよ。味じゃなくって物としてね。もしオリジナルのカレーと銘打って商売するのであれば、いまのままじゃ話にならないもんね。それに作り上げたもののすべてにオリジナリティを求めてたら疲れちゃうよ、オレはカレー屋じゃないし。ただウマいものを作りたいってだけでいいじゃん」

どうやらわたしは、勘違いしていたらしい。
今度はもう少し楽な気持ちで、彼のカレーを食べられそうな気がする。


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[Kashmir (Live Video)] by Led Zeppelin